タイタンの女神 プロローグ

新・ふしぎの国のフレア
タイタンの女神
プロローグ
夜空を見上げると、そこは無限に広がる星の世界。
美しい星の輝きで彩られた漆黒のキャンパスは、移り変わる時間とともに、その装いを変える。
消えて無くなる星もあれば、新しく生まれる星もある。
星ひとつひとつに命があり、情熱があり、愛がある。
そして、星の数だけ物語がある。
いったい誰が何の目的でこの星たちの物語を描いているのだろうか……
その答えを知る者は誰もいない。
だが、星たちの物語は描き続けられてゆく。
そして、今日もまた新しい物語が誕生するのである。
ミィは夏の星空が好きだった。
水平線から雲のように立ち昇る光芒とその両側で輝く星たち。
その星たちの中でも夏の星空で一際(ひときわ)目をひく一等星ベガの華麗で情熱的な輝きは、まるで星屑のステージの中央に立つヒロインのようである。
だが、ヒロインを演じるこのベガには、もの悲しさが感じられる。美しい輝きの影で見え隠れする切ない想い。
「――懐かしい……」
なぜそう感じるのか分からない。だが、ベガを見ると、なぜかセンチメンタルな感情が浮びあがってくる。遠い昔にベガの誕生を見ていたような錯覚。俗に言うデジャブという現象がミィを包み込んだ瞬間に発生する心の中のビッグバンが、ミィを星たちの世界に瞬間移動させてくれる。
ベガが星たちの世界に酔い痴れるひとときを運んでくれるから、ミィは夏の星空が好きなのである。
――あの星にいったい何があるのだろうか?
ミィは、ベガが放つ様々な感情を受け止めながら、ベガに秘められた物語を想い描いていた。
闇に包まれた部屋に炎が灯った。
丸いガラス玉の中心に突如現れた青白い炎。
ひとつ、またひとつ、と順番に灯ってゆく。
その横を進む黒い影があった。
その影が進むにつれて、その影の両側にあるガラス玉に青白い炎が灯されてゆくのである。
そして、炎が増えるにつれて部屋の有り様が認識できるようになった。
部屋の奥に向かって真直ぐに敷かれた赤いフェルトの両脇に、大理石で造られた燭台が整然と並び、それぞれの燭台の上にガラス玉が乗せられている。
黒い影が進む先には大きな燭台があり、その上に一際目立つガラス玉が浮かんでいる。
そして、そのガラス玉の奥には丸いテーブルと椅子があり、テーブルの上には、シルバーで造られた聖杯とカラフェが置かれていた。
黒い影が大きなガラス玉の前で立ち止まった。
そして、ゆっくりと両手を左右に広げてから、静かにやさしくガラス玉に両手を当てた。その瞬間、大きなガラス玉の中に青白い炎が現れ、強い閃光が走った。
「フォクシー。絶対に失敗は許さんぞ」
「はい、心得ております。ヴァイパー様。必ずや成功させてご覧にいれます」
ヴァイパーの後ろで跪いているフォクシーが顔を上げた。
「よくぞ言った。期待しておるぞ、フォクシー」
ヴァイパーは振り返りながらそう告げると、フォクシーを見下ろした。
「――相変わらず美しい……」
と、フォクシーの口から思わず言葉が漏れた。
透き通るような白い肌、堀が深くて大きな瞳、その間からピンと伸びるきれいな鼻筋と小さな口、とてもバランスのよい顔立ちに、長くて光沢のある黒髪が相俟って、一段と美しさを増している。黒の生地に鮮やかな赤色の花びらがデザインされ、数多くの宝石が散りばめられた長いドレスを身に纏った美しい女性の姿に、フォクシーの瞳は釘付けになっていた。その女性の額に描かれた魔の紋章、赤く光る瞳と小さな口からほんの少しだけ姿を見せている白い牙が、まさしく闇の支配者ヴァイパーであることを示していた。
――闇の支配者が、なぜこんなに美しい女なのか? これ以上の美しい女がこの宇宙に存在するとは思えない。
フォクシーはそう思って「ハッ」と我に返った。
――女? いや、違う。ヴァイパーは男だ。危ない危ない。このヴァイパーの美貌(びぼう)に心を奪われた者は、闇の生贄(いけにえ)にされ、魂ごと消されてしまう。決して心を奪われてはならないんだ。
フォクシーは大きく息を吸って、正気を取り戻した。
「フォクシー。何をしておる。早く向かうのだ。神の星タイタンへ」
ヴァイパーは、赤い液体が入った聖杯を手にしながら、フォクシーに告げた。
「はい、さっそく行って参ります」
フォクシーは、頭を下げてから立ち上がり、音もなく姿を消した。
「ついに我が手に」
ヴァイパーは、赤い液体を一気に飲み干すと、狂気に満ちた笑みを浮かべた。

ふしぎの国のフレアの続編です♫




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