INTERNATIONAL エピローグ

INTERNATIONAL
エピローグ
2025年5月下旬
日本特殊情報局(JSIB)の拠点は不明だが、確かに日本国内に存在している。
JSIBは自優守護党の聖和会に通じていて、長きに渡って聖和会から依頼された裏の仕事を請け負ってきた。
そのエージェントの一人、大谷正彦は1984年9月に堂楽園ホテルに入社した。
堂楽園ホテルが開業した年である。
まだ20歳だった大谷は、この時、すでにJSIBのエージェントになっていて、堂楽園ホテルを監視する任務を受けて、正社員として堂楽園ホテルに潜入した。
堂楽園ホテルを監視するというより、実際の任務は、堂楽園ホテルの従業員たちを監視することだった。
堂楽園ホテルが開業する前から、聖和会は日本都市開発クリエイトの社長である竹井剛三と通じていた。
この真っ黒の企業が堂楽園ホテルを開業するには国家権力の協力が必要不可欠だった。
そこでこの真っ黒の企業に協力して便宜を図ったのが聖和会だった。
だが、実質的に裏工作に奮闘して、堂楽園ホテルを開業に導いたのがJSIBだったのである。
大谷正彦の具体的な任務は、堂楽園ホテルの裏の顔を知った従業員を一人一人、JSIBのチーフに報告し、重点的にその従業員を監視し、その従業員が裏の顔を暴露するような行動に走る前に葬り去り、堂楽園ホテルを護ることである。
実質的に裏の顔を知った従業員を葬り去るのはクリーナーの役割で、大谷はあくまでも従業員の情報をチーフに報告するだけだった。
1984年から1994年のリニューアルオープンを経て、1999年のインターナショナル堂楽園ホテルの経営破綻まで、約15年に渡る任務を全うした大谷は、JSIDの拠点に戻り、チーフに昇格して、大谷チームを率いるようになったのである。
それから長い年月が流れて、大谷正彦は、2024年の9月頃から堂楽園ホテルのことを調べている者が存在していることに気がついた。
インターネットを駆使しているようだが、堂楽園ホテルの情報は、20年前頃には完全に消し去っていて、本体の日本都市開発クリエイトは、日本に存在していなかったことになっているため、辿り着けないはずだった。
だが、とある新聞の切り抜き記事の画像が1枚だけインターネット上に残っていて、堂楽園ホテルのこと調べている何者かが、その画像に辿り着きダウンロードしたのである。
大谷はその何者かを突き止めることに奮闘し、何者かの正体を突き止めた。
その人物は、かつてインターナショナル堂楽園ホテルの和食と鉄板焼きで共に勤務した坂井琢郎だった。
大谷は元同僚とは言え、坂井の行動を放置できなかった。
なぜなら、これを見逃したらエージェント失格のレッテルを貼られてしまうからである。
これはエージェントの道を選んだ者の宿命。
大谷は大谷チームを引き連れて、断腸の思いで坂井の元へ向かい、任務を遂行したのだった。
JSIBの拠点に戻ってきた大谷正彦は、大谷チームの部屋に入った。
窓がない閉ざされた空間だが、明るくて綺麗に整えられた部屋である。
チームのメンバーたちは、ランチタイム中で、1時間ほど遅れて戻ってくるだろう。
大谷はデスクの椅子に座り、パソコンの電源を入れて、ワイシャツの胸ポケットからマイクロSDを取り出した。
坂井琢郎から受け取ったマイクロSDである。
大谷はスロットにマイクロSDを差し込んで、エクスプローラーを開いた。
「エクセルとワードか。まあ、こんなもんだろう」
一般的なソフトウェアなら特に注意することはない。
大谷はエクセルで作成された資料を開いた。
「年表か・・・」
左から「カレデュノフ共和国」「日付」「年」「日付」「日本国」「聖和会」「自優守護党」「下野投利銀行」「内閣総理大臣」「国務大臣」「政務次官」「その他」の順で項目が並んでいる。
下へ向かって、1945年から2002年までの期間の出来事や様々な動き、そして、それぞれの出来事などに関わりがある人物の名が記載されている。
ちなみにカレノフ総連はカレデュノフ共和国の項目で記載されて、堂楽園ホテルは日本国の項目で記載されている。
重要な出来事と動きと連動している人物を赤で記しているが、聖和会が圧倒的に多い。
一目瞭然で「聖和会が深く関わっている」ことが分かるように作成されていた。
ワークシートの1番目が年表で、2番目からがそれぞれの出来事や動きなどの深掘り資料となっている。
「これが世に公表されていたら、ほんとうにヤバいことになってただろうな」
大谷正彦はマイクロSDを坂井琢郎から入手したのは正解だったと確信した。
「これを全部確認する必要はないだろう」
大谷はそう思って、エクセルを閉じようとした。
「うん・・・」
ずらりと並んだワークシートの最後にある名前に目を止めて、
「アルカポネってなんだ?」と興味を持った。
アル・カポネと言えば暗黒街ボスのことだろ。
大谷はアルカポネのワークシートを確認した。
「えっ、シークレットだけ」
赤文字でリンクが貼られていた。
「やはり日本の暗黒街のボスってことか。いったい誰のことだ?」
大谷は油断していた。
リンクをクリックした瞬間、パソコンのモニターが真っ暗に変わり、ハードディスクが激しく動き始めた。
「しまった、ウイルスや」
大谷は慌てて対処しようと試みたが、操作できない。
「このままじゃ、全部やられる」
大谷はパソコンのネットワーク接続を外し始めた。
大谷正彦はホッとして、動きが止まったパソコンを見下ろした。
「オレのパソコンは被害を受けたが、JSIBのネットワークにまで被害が及ばなかっただけでも良しとしよう」
大谷は椅子に座り、
「坂井のやろう・・・」
目の奥に映る真面目に職務を全うする坂井琢郎の姿に、
「まさか、命を落としても反撃してくるとは。あっぱれ奴だ」と声をかけて、
「いつかオレが死に、そっちに行って、おまえに会った時は、必ず褒めてやるぞ」と伝えた。
大谷は目の奥に映る坂井の姿を見続けながら涙を浮かべていた。
もしかたら、坂井琢郎が記したアルカポネとは、JSIBのことだったのかも知れない・・・
完

この物語はフィクションです



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