INTERNATIONAL vol.25
- 夢見操一

- 3月10日
- 読了時間: 5分
更新日:3月27日
INTERNATIONAL
(45)
1996年11月1日
東京にある自優守護党(ジユウシュゴトウ)の聖和会(ショウワカイ)の事務所では密談が行われていた。
メンバーは、八塚治、小森光喜、大泉純三の3人だけで、聖和会の大御所と称されるほど影響力を誇示していた白川政次郎の姿はない。
なぜなら、白川は今回の衆議院議員解散総選挙で落選してしまい、高齢というファクターも相まって、この先、国政への復帰を目指すのかどうかさえ不透明な状況になり、今回の密談には参加しなかった。
だが、他の聖和会の幹部たちも出席していないとなれば、今回の密談の内容は超極秘レベルなのだろう。
さて、今回の密談は、第二次阪本竜蔵内閣の発足を目前にして、聖和会にとって嫌な問題が浮上していて、その対応を協議するために行われていた。
その嫌な問題とは、来週の11月7日に発足する第二次阪本竜蔵内閣の組閣にも関わるもので、まだ調整段階とは言え、聖和会から八塚が大蔵大臣、大泉が厚生大臣、そして、亀田静夫が建設大臣として入閣が内定しているのだが、第一次阪本竜蔵内閣で通商産業政務次官に任命されていた辻井元高については、今回の政務次官職を見送り、今後の情勢を見定める必要があると、八塚と小森、大泉の見解が一致したところである。
去る1996年9月27日に衆議院が解散された。
衆議院議員解散総選挙の公示は1996年10月8日だが、「解散によって職を失った者たち」と「新たに国政に挑む者たち」にとって解散日が事実上の解散総選挙のスタートであり、解散総選挙に向けた各々の活動が動き始めていた。
そんな状況下で、10月の初旬に発刊された「月刊コレエヌ」にカレデュノフ共和国による日本人拉致事件に関する記事が掲載された。
ジムヨンイルの策略指令『拉致の真実』を執筆した足利駿司(アシカガシュンジ)が「月刊コレエヌ」の取材に応じて、カレデュノフ共和国による日本人拉致事件に対する被害者とその家族への想いを綴ったのである。
この記事が、以前から幾度となく取り沙汰されてきた疑惑が宙ぶらりんの状態から脱却し、疑惑の真相を明らかにする道標の如く、拉致被害者とその家族に一筋の光を与えた。
その光が、まるで運命の輪が噛み合うように、一つ、また一つ、玉が輪を描くように繋がり始めて、その玉を支援する者たちがエネルギーを与えて、より強靱な輪を築き始めていた。
聖和会の幹部の中で、実権を握っている八塚と小森、大泉は、この動きを注視して警戒し始めていた。
カレデュノフ共和国の愚行と断言しても非難されないと思しき「日本人拉致事件」に対して、敢えて曖昧な姿勢で追求と解決を先送りしている現状の裏に秘めた計略の存在を誰にも悟られてはならない。
なぜなら、この秘密裏の策略を成功させるには、「Xデー」までこの現状を維持し続ける必要があるからだ。
この計略の存在を知っているのは、聖和会の幹部の一部だけで、それ以外のメンバーには知らせていない。
そして、現在、この計略の一端を担い、現在、実質的に計略の的と深く関わっているのが、辻井元高である。
この重役を辻井に与えたのは、他でもない聖和会の前会長・田辺晋一郎であり、この重役の見返りとして、辻井の入閣を約束し、現在に至っている。
辻井に関しては、あの丸十字の事件においても、裏でいろいろ動いてもらった経緯かあり、辻井の入閣は必須条件になっていて、政務次官職に携わった後、入閣を約束している。
「この記事が発端で、辻井君と『的』との関係を探ろうとする輩が現れる可能性も否定できない」
八塚がローテーブルに投げ出された「月刊コレエヌ」に掲載され記事を見ながら警戒心を表す。
「ええ、そうですね」
大泉が肯定して、
「現職の国会議員が名誉顧問として『的』の事業に関わり、『的』の悪行に迫ろうとする無能な正義を押さえ込んでいる」と言って口元に笑みを浮かべて、
「こんな情報を耳にしたら、見境なしに飛びついてくる輩は腐るほどいますからね」と百八十度違う鬼の形相で、
「だからこそ、前会長の代から続けてきた秘密裏の計略をぶち壊すような輩はすべて排除する」と豪語した。
「・・・」
八塚と小森の表情が凍りついた。
色男で好感度が高く、国民から人気を集めている国会議員とはまったくの別人。
ついに大泉が本性を現した。
「・・・」
八塚と小森は、蛇に睨まれた蛙状態になっている。
「会長」
大泉は八塚を凝視して、
「辻井議員には、今回の入閣を辞退してもらい、この先、どこかのタイミングを見計らって再入閣させるという条件で、重役を継続してもらうことに理解を得てください。この重役は辻井議員にしかできませんから。よろしくお願いします」と告げて頭を下げて、
「小森議員は、警視庁、警察庁、公安警察に圧力をかけて、動きを封じてください。どんな手段を使っても構いません。お願いしますね」と頭を下げた。
大泉が丁寧に頭を下げたのは形式的なことであり、大泉がこの密談を完全に仕切っていた。
「相手はカレデュノフ共和国。一筋縄で攻略できる相手ではない。今は軽率に動いてはいけないんだ。今は国民を欺いてでも、この計略を押し進めて必ず完遂させる。そのためにも絶対に妥協はしない。この覚悟をもって、この問題に立ち向かう」
大泉の熱弁に八塚も小森も圧倒されるばかりであった。

この物語はフィクションです



コメント